共通フレーム
共通フレーム(SLCP:Software Life Cycle Process)は、情報処理推進機構(IPA)が発行している、ソフトウェアライフサイクルにおける用語や作業内容などを規定したガイドラインです。
IPAでは、共通フレームについて以下のように定義しています。
■共通フレームとは
「共通フレーム2013の概説」(PDF)より
ソフトウェアの構想から開発、運用、保守、廃棄に至るまでのライフサイクルを通じて必要な作業項目、役割等を包括的に規定した共通の枠組み。何を実施するべきかが記述されている、
「ITシステム開発の作業規定」である。
■その目的は
「共通フレーム2013の概説」(PDF)より
日本において、ソフトウェア開発に関係する人々(利害関係者)が、「同じ言葉で話す」ことが出来るようにするため。
なぜ共通フレームが必要か?
ソフトウェア開発とその取引には、以下のような問題が存在します。
- 取得者(クライアント)と供給者(開発者)間で用語が一致していない
- 多くの人が関わることでコミュニケーションが複雑化する
- 役割分担が明確でない
- 不明瞭な見積もりによりトラブルが生じることが多い
共通フレームの目的は、これらの問題を解決するために、ソフトウェア開発に関わる人々(利害関係者)が共通の認識の元、「同じ言葉で話す」ことができるようにすることです。
具体的には以下のような取り組みを行います。
- 取得者(クライアント)と供給者(開発者)およびシステム開発に関わるすべての人が、システムライフサイクルの各段階での作業項目を共通に参照できるように詳細に記述し、ソフトウェア取引を明確にするための基準を設ける。
- システム開発を委託する際などに発注側と受注側の間に誤解が生じないように、汎用的な用語や各工程の内容(分類)を定義し、標準化する。
こうした取り組みにより、利害関係者全員の足並みが揃うことで、上記のような問題が解決されることが期待されています。
ライフサイクルのプロセス
また、共通フレームでは、ソフトウェアライフサイクルの各工程として、企画プロセス・要件定義プロセス・開発プロセス・運用プロセス・保守プロセスを定義しています。
これらの5つのプロセスの概要を以下に示します。※各プロセスの詳細は次回のレッスンから学習します。
プロセスの名称 | 概要 |
---|---|
企画プロセス | 情報システムによって解決すべきビジネス上の課題を特定し、システム開発の目的と範囲を定めます。この段階で、プロジェクトの大枠が決定され、後続のプロセスへの道筋がつけられます。 |
要件定義プロセス | システムが満たすべき具体的な要件を明確にします。これには、システムが提供すべき機能や性能、利用者のニーズなどが含まれます。要件は、システムの設計と実装の基礎となり、プロジェクトの成功に直結する重要な要素です。 |
開発プロセス | 定義された要件を基にしてシステムの設計、コーディング、そしてテストが行われます。このプロセスを通じて、要件を満たすための情報システムが構築され、その品質が確保されます。 |
運用プロセス | 開発されたシステムを実際の運用環境に導入し、日々の管理と監視を行います。この段階で、システムの性能を維持し、問題が発生した場合には迅速に対応する体制が整えられます。 |
保守プロセス | システムの安定稼働を支えるために、定期的なレビューと改善、問題への対応が行われます。これには、新たな要件への適応や技術的な問題の解決が含まれます。 |
ソフトウェアライフサイクルでは、システムが完成し、運用プロセスが開始されても、必要に応じて企画や要件定義などの各プロセスに立ち戻ってシステム全体を継続的に見直していくことが重要です。
参考:IPA発行「共通フレーム2013の概説」
関連用語
CMMI(Capability Maturity Model Integration:能力成熟度モデル統合)は、組織のプロセス改善※と能力成熟度の評価のためのモデルです。
※CMMIにおける「プロセス」とは、特定の目的を達成するために組織が実行する一連の活動や手順のことです。
もともとはソフトウェア開発の分野で開発されましたが、現在ではプロジェクト管理やシステムエンジニアリングなど、幅広い分野で利用されています。CMMIの主な目的は、組織の効率性、生産性、品質の向上をサポートし、より予測可能で管理しやすいプロセスを実現することです。
CMMIは成熟度モデルを用いて、組織のプロセスの成熟度を評価します。これには5つのレベルがあります。
- レベル1(初期): この段階では、プロセスは不規則で、しばしば混乱しています。プロジェクトは予測不可能で、反応的に管理されています。結果として、プロジェクトの成功は個人の努力に大きく依存します。
- レベル2(管理された): プロジェクトレベルでの管理が行われ、プロセスはより計画的です。基本的なプロジェクト管理プロセス(要件管理、プロジェクト計画、プロジェクト監視と制御)が確立されています。
- レベル3(定義された): 組織全体のレベルでプロセスが標準化され、文書化されています。プロセスは組織全体で一貫性があり、プロジェクトに合わせてカスタマイズされます。
- レベル4(定量的に管理された): プロセスと製品の品質は定量的に理解され、制御されています。データと統計的手法を用いてプロセスの変動を管理し、予測可能なプロセスパフォーマンスを達成します。
- レベル5(最適化された): この最終段階では、組織は継続的なプロセス改善に焦点を当てています。データ駆動型の意思決定を用いてプロセスを革新し、効率化し、市場や顧客の要求に迅速に対応します。
CMMIを使用することで、組織はプロジェクトのリスクを低減し、効率的なリソース管理、顧客満足度の向上、製品やサービスの品質改善などの利点を享受できます。組織はCMMIモデルを用いて、自らのプロセスを定期的に評価し、持続的な改善を図ることができます。