経営戦略③ 経営情報分析手法

目次

経営情報分析手法

PPM

PPM(Product Portfolio Management:プロダクトポートフォリオマネジメント)とは、企業が持つ複数の製品群を戦略的に管理・運用する手法です。

製品のライフサイクルや市場競争状況に応じて、投資やリソースの配分、製品の拡大・維持・撤退を決定することを目的としています。

PPMでは、製品ポートフォリオを市場成長率と市場占有率に基づいて4つのカテゴリに分類します。それぞれのカテゴリは、以下のような特徴を持っています。

ポートフォリオ(Portfolio) は、元々の意味として「ファイル」や「書類入れ」といった意味を持ちます。文脈に応じて「ポートフォリオ」の意味は変わりますが、共通しているのは「ある集まりや組み合わせ」を意味している点です。

PPMでは、企業が市場に提供する製品やサービスの組み合わせを「製品ポートフォリオ」と呼びます。

花形
(Star)
市場成長率が高く、市場占有率も高い製品。
現在および将来の主要な収益源と見なされ、競争優位を保つために継続的な投資が必要です。花形は、将来的に金のなる木になる可能性が高いとされます。
負け犬
(Dog)
市場成長率が低く、市場占有率も低い製品。
少ない収益を生み出し、将来性が限られているため、撤退や売却を検討することが一般的です。
金のなる木
(Cash Cow)
市場成長率が低く、市場占有率が高い製品。
安定した収益を生み出し、他の事業への投資資金源となります。大きな投資を必要とせず、安定したキャッシュフローをもたらします。
問題児
(Question Mark)
市場成長率が高く、市場占有率が低い製品。
潜在的に大きな成長の可能性を持っていますが、市場シェアを獲得するためには大きな投資が必要です。そのため、将来の成長に賭けるか、撤退するかという戦略的な判断が求められます。

SWOT分析

SWOT分析は、企業やプロジェクトの戦略分析手法の一つで、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の4つの要素を分析します。

企業の経営環境を分析し、内部環境である強みと弱み、外部環境である機会と脅威を明確にすることで、事業やプロジェクトの現状を理解し、戦略立案や意思決定を効果的に行うことができます。

プラス要因マイナス要因
内部環境Strength:強みWeakness:弱み
外部環境Oppotunity:機会Threat:脅威
  1. S (Strengths、強み):企業が他社に対して優れているところや、他社が持っていないリソースや能力です。これは独自の製品、特許、強いブランド、コストリーダーシップ、良好な顧客関係など、あらゆるものが該当します。
  2. W (Weaknesses、弱み):企業が改善する必要がある面や、競合他社に比べて不足している部分です。これには、財務的な課題、技術的な遅れ、高いスタッフの離職率などが含まれます。
  3. O (Opportunities、機会):企業が利用できる外部環境の要素です。これには新しい市場の開拓、競合他社の弱点、テクノロジーの変化、規制の緩和などが該当します。
  4. T (Threats、脅威):企業の成功を阻害する可能性のある外部環境の要素です。これには、競合他社の新製品、市場の縮小、規制の強化、経済の減速などが含まれます。

これら4つの要素を識別し、それらを対策・戦略立案に活用することで、企業は自社のビジネス環境をよりよく理解し、適切な戦略を策定することが可能となります。

SWOT分析の具体例

SWOT分析の具体例を以下に示します。

ここでは、架空の中小企業「Tech Solutions Inc.」が新しいソフトウェア製品を市場に投入する際のSWOT分析結果を例に挙げます。

Strengths(強み)

  • 高い技術力: Tech Solutions Inc. は、最先端の技術を持つエンジニアが多く在籍しており、製品の品質が高い。
  • 柔軟な対応: 中小企業であるため、顧客のニーズに迅速に対応できる。
  • 特定分野での専門知識: 医療分野のソフトウェア開発に特化しており、業界内での評価が高い。

Weaknesses(弱み)

  • ブランド認知度の低さ: 大手企業に比べて知名度が低く、市場での認知度が不足している。
  • 限られた資金力: 開発やマーケティングに十分な資金を投入できない。
  • 販売チャネルの不足: 全国規模の販売網が確立されておらず、特定の地域に依存している。

Opportunities(機会)

  • 市場の成長: 医療分野におけるデジタル化の進展に伴い、ソフトウェアの需要が増加している。
  • 政府の支援: デジタルヘルスケアの推進に向けた政府の補助金や助成金を活用できる。
  • 競合企業の撤退: 大手企業が医療分野から撤退したため、市場シェアを獲得するチャンスがある。

Threats(脅威)

  • 新規参入の増加: 医療分野のソフトウェア市場に新たな競合が増えており、競争が激化している。
  • 規制の変更: 医療関連の規制が厳しくなり、製品開発や販売に影響を与える可能性がある。
  • 技術の急速な進歩: 技術の進歩が速く、現行製品が短期間で陳腐化するリスクがある。

これらのSWOT分析結果を基に、Tech Solutions Inc. は強みを活かし、機会を最大限に利用する戦略を立て、弱みを補完し、脅威に対抗するための対策を検討することができます。

バリューチェーン分析

バリューチェーン分析は、企業の活動を一連の価値創造プロセスと捉え、それぞれの活動がどのように付加価値を生み出しているかを評価する手法です。

企業の全活動を「主活動」と「支援活動」の二つに分け、各活動がどのように価値を生み出し、コストを発生させているのかを理解することで、競争力を向上させるための戦略を策定することができます。

主活動とは、原材料の購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービスなど、製品の生産から消費者への提供、さらには保守や修理に至るまでの一連の活動を指します。

一方、支援活動は企業の全体的な効率と効果を最大化するための間接的な活動を指します。これには調達、技術開発、人事・労務管理、全般管理といった活動が含まれます。

主活動購買物流製造出荷物流販売・
マーケティング
サービス
支援活動調達、技術開発、人事・労務管理、全般管理
バリューチェーンとは?

バリューチェーンはハーバード大学経営大学院教授である経済学者マイケル・E・ポーター氏によって提唱された考え方です。直訳すると「価値連鎖」という意味になります。

この概念は、企業が製品やサービスを作成・提供するための一連の工程や活動を表します。これらの工程や活動は、それぞれが製品やサービスに価値を加えるものとして位置付けられています。

具体的には、原材料の調達から製造、販売、そして最終的に消費者に届くまでの各段階がバリューチェーンとして考えられます。

例を挙げると、コーヒーショップの場合、豆の調達から焙煎、店舗での販売、そして顧客サービスまでがその連鎖に含まれます。

バリューチェーンの考え方を用いることで、企業はどの活動が最も価値を生み出しているのか、またどの部分が改善の余地があるのかを明確にし、より効果的な経営戦略を立てることができます。

3C分析

3C分析は、企業が戦略を立案する際に重要とされる3つの要素、すなわち、Customer(顧客)Competitor(競合)Company(自社)を対象とした分析手法です。

これらの要素を組み合わせて、企業の強み・弱みや市場環境を詳細に把握し、戦略立案に活かすことが目的です。

顧客のニーズや動向、競合他社の戦略や状況、企業の内部リソースを理解し、それらを踏まえた効果的な戦略を策定することが求められます。

ファイブフォース分析

ファイブフォース分析は、企業が競争環境を理解するためのツールです。以下の5つの「力」を考慮します。

  1. 業界内の競合:業界内での直接的な競争の激しさ。
  2. 新規参入業者の脅威:新たに業界に参入しようとする企業からの脅威。
  3. 代替品の脅威:同等の製品やサービスを提供する別業種からの脅威。
  4. 買い手(顧客)の交渉力:顧客が価格や品質などについて企業と交渉する力。
  5. 売り手(供給元)の交渉力:原材料や労働力などを供給する者が企業と交渉する力。

これらを評価し、競争環境を把握することで、適切な戦略を立てることが可能になります。

アンゾフの成長マトリクス

アンゾフの成長マトリクスは、企業の成長戦略を考える際に用いられるフレームワークで、製品と市場の新旧を2つの軸に分けて4つのカテゴリに分類します。各カテゴリはそれぞれ特定の成長戦略を示しています。

  • 市場浸透:既存市場において、既存製品の販売を拡大する戦略です。例えば、マーケティングキャンペーンを強化したり、価格を見直したりすることが考えられます。
  • 市場開拓:既存製品を新しい市場に投入する戦略です。例えば、新しい地域や国への進出が該当します。
  • 製品開発:既存市場に対して新しい製品を投入する戦略です。例えば、ゲームの新シリーズを開発するなどが考えられます。
  • 多角化:新しい市場に新しい製品を投入する最もリスクの高い戦略です。例えば、全く異なる業種に進出することが該当します。

企業は自身のリソースや市場状況を考え、これら4つの戦略から最適なものを選びます。

製品
既存新規
市場既存市場浸透
既存市場で既存製品を更に売る戦略
新製品開発
既存市場に新製品を売る戦略
新規市場開拓
新たな市場に既存製品を売る戦略
多角化
新たな市場に新製品を売る戦略

ビジネスモデルキャンバス

ビジネスモデルキャンバスは、企業のビジネスモデルを視覚化し、理解しやすくするためのツールです。

このキャンバスは以下のような9つの基本的な構成要素に分かれており、それぞれが企業が価値を生み出し、提供し、獲得する方法に関連しています。

  1. 顧客セグメント: 企業がどの顧客をターゲットとしているのか。
  2. 価値提案: 企業が提供する製品やサービスが顧客にどのような価値をもたらすのか。
  3. チャネル: どのようにしてその価値を顧客に届けるのか。
  4. 顧客との関係: 顧客とどのような関係を維持するのか。
  5. 収益の流れ: どのようにして収益を得るのか。
  6. リソース: 価値提案を達成するために必要な主要な資源は何か。
  7. 主要活動: その価値提案を達成するためにどのような活動を行うのか。
  8. パートナー: その価値提案を達成するために協力関係を持つ主要なパートナーは誰か。
  9. コスト構造: そのビジネスモデルを維持するための主要なコストは何か。

これらの要素を一つのキャンバス上に描くことで、企業のビジネスモデル全体を視覚的に理解しやすくなります。また、新しいビジネスモデルを設計したり、既存のビジネスモデルを改善したりする際にも利用されます。

以下に、Uberを代表とする「ライドシェアリングサービス」のビジネスモデルについて例に挙げます。

パートナー
自動車保険会社
地域の規制当局
主要活動
プラットフォームの開発・維持
新規ドライバーの獲得
市場拡大のためのマーケティング
価値提案
個人ユーザーに対しては、安価で便利な移動手段を提供
ドライバーに対しては、自分の時間を活用して収入を得る機会を提供。
顧客との関係
アプリ内での直接的なやりとり
カスタマーサポートを通じた問い合わせ対応
顧客セグメント
個人ユーザー(移動手段として利用)
ドライバー(収入源として利用)
リソース
アプリ
ドライバーと乗客のネットワーク
チャネル
Uberのアプリケーションを通じてサービスを提供
コスト構造
プラットフォームの開発と維持費用
マーケティングコスト
管理費用
収益の流れ
乗車料金からの手数料

VRIO分析

VRIO分析は、企業が持つ資源と能力が、持続可能な競争優位を生むかどうかを評価するフレームワークです。

“VRIO”は、Value(価値)、Rarity(希少性)、Imitability(模倣性)、Organization(組織化)の頭文字を取ったものです。

  • Value(価値):資源や能力が顧客にとって価値があるか、企業がその資源を使って機会を利用または脅威を排除できるかを問います。
  • Rarity(希少性):資源や能力が競合他社にとって珍しい、または希少かどうかを問います。
  • Imitability(模倣性):競合他社がその資源や能力を模倣または取得することが難しいかどうかを問います。
  • Organization(組織化):企業がその資源や能力を効果的に活用できる組織構造を持っているかどうかを問います。

これら4つの要素全てに”はい”の答えが出れば、その資源や能力は持続可能な競争優位をもたらす可能性があります。

価値がある?
Value
希少性がある?
Rarity
模倣が難しい?
Imitability
組織で活用されている?
Organization
競争上の意味
No競争上の不利
YesNo競争上の同等性
YesYesNo一時的な競争上の優位性
YesYesYesNo未活用の競争上の優位性
YesYesYesYes持続的な競争上の優位性
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