棚卸資産の評価法
棚卸資産とは、企業が製品を製造または販売するために保有している在庫のことを指します。
具体的には、原材料、仕掛品、製品などがこれに該当します。これらの棚卸資産は、企業の財務状況を把握する上で重要な要素であり、財務諸表の一部を占めます。
棚卸資産の評価にはいくつかの方法がありますが、その中でも特に一般的なのが「先入先出法」と「移動平均法」です。
先入先出法(FIFO:First-In First-Out)
先入先出法は、最初に入荷した商品(または最初に製造した商品)を最初に販売するという原則に基づいて在庫を評価します。
具体的には、古い在庫から順にコストを計上し、新しい在庫のコストは後回しにします。
この方法は、インフレが進行している時期には、在庫の評価額が現在の市場価格に比べて過小評価される可能性があるという欠点があります。
先入先出法の例題
例題:商品Aを先入先出法で評価した場合、当月末の在庫の評価額は何円か。
日付 | 商品Aの取引内容 | 個数 | 単価(円) |
---|---|---|---|
1 | 繰越在庫 | 20 | 100 |
8 | 購入 | 20 | 120 |
12 | 払出し | 30 | ー |
15 | 購入 | 20 | 110 |
30 | 払出し | 5 | ー |
解答&解説
答え:2,800円
日付ごとの在庫の評価額を表に加えると以下のように推移します。払出しの際、先に購入した在庫から払出すことがポイントです。
日付 | 取引内容 | 個数 | 単価(円) | 在庫の評価額 |
---|---|---|---|---|
1 | 繰越在庫 | 20 | 100 | 20×100=2,000円 |
8 | 購入 | 20 | 120 | 20×100+20×120=4,400円 |
12 | 払出し | 30 | ー | 10×120=1,200円 ※単価100円の繰越在庫から先に払出します。残るのは120円の在庫のみになります。 |
15 | 購入 | 20 | 110 | 10×120+20×110=3,400円 |
30 | 払出し | 5 | ー | 5×120+20×110=2,800円 ※120円の在庫から先に払出します。残るのは120円の在庫5個と110円の在庫20個です。 |
移動平均法
移動平均法は、在庫の平均コストを算出し、それを在庫の評価に用います。
具体的には、在庫の購入(仕入)毎に平均コストを再計算します。
この方法は、在庫コストの変動を滑らかにし、急激な価格変動の影響を緩和する効果があります。しかし、計算が複雑で、頻繁に在庫の購入や製造が行われる場合には管理が難しくなる可能性があります。
移動平均法の例題
ある商品の4月の仕入と売上が表のとおりであるとき、移動平均法による4月末の商品の棚卸評価額は何円か。移動平均法とは、仕入の都度、在庫商品の平均単価を算出し、棚卸評価額の計算には直前の在庫商品の平均単価を用いる方法である。
解答&解説
答え:3,900円
仕入の時に毎回在庫の平均単価を再計算します。売上は直近の在庫平均単価で出庫します。
4月20日の売上の出庫単価は、直近の4月5日の在庫平均単価である22円になります。
出庫合計金額:150×22=3,300円
在庫合計金額:50×22=1,100円
4月30日の仕入の際に再び平均在庫単価を算出します。
在庫合計金額:1,100+2,800=3,900円
在庫平均単価:3,900÷150=26円
よって答えは3,900円になります。
在庫管理
在庫管理とは、企業が製品の生産と販売を円滑に行うために、必要な在庫を適切な量とタイミングで保有することを目指すプロセスのことを指します。
適切な在庫管理は、過剰在庫によるコスト増大を避けると同時に、在庫切れによる販売機会の損失も防ぎます。
在庫管理の方法には様々な方式がありますが、その中でも「定量発注方式」と「定期発注方式」がよく用いられます。
定量発注方式
定量発注方式は、在庫がある一定のレベル(再発注点)まで減少した時点で、固定された量を発注する方法です。再発注点と発注量は、発注費用(注文処理費用や輸送費用)と在庫維持費用(保管費用など)の合計が最小になるように決定されます。
この方式の利点は、在庫量の管理が比較的容易であることと、在庫切れを防ぐことが可能であるという点にあります。
しかし、需要の変動に対する対応が難しいという欠点もあります。
定期発注方式
定期発注方式は、一定の期間(例えば1週間や1ヶ月)ごとに発注を行い、その時点で必要な量を発注する方法です。
この方式の利点は、需要の変動に対応できることと、発注のタイミングを一定に保てるため発注作業が容易であるという点にあります。
しかし、発注周期と需要の変動が合致しない場合、在庫切れや過剰在庫が生じるリスクがあります。
以下は、定期発注方式で原料の発注量を求める計算式です。
発注量 = ( 発注間隔 + 調達期間)×毎日の使用予定量 + 安全在庫量 – 現在の在庫量 – 現在の発注残
- 発注間隔: この間隔は次の発注までの期間を示し、その期間分の消費量を計算する際の基礎となります。
- 調達期間: 調達期間は、発注してから商品が届くまでの時間を指します。この期間を考慮することで、在庫が切れることを防ぐことができます。
- 毎日の使用予定量: 毎日の使用予定量は、1日に使用される商品の予測量です。過去のデータや予測に基づいて算出されます。
- 安全在庫量: 安全在庫量は、不測の事態に備えて追加で保持する在庫の量です。これを加えることで、予期せぬ需要増や供給の遅れに対応できます。
- 現在の在庫量: 現在の在庫量は、倉庫に現在保管されている商品の数量を示します。これを考慮して、新たな発注量を決定します。
- 現在の発注残: これは既に注文済みですがまだ納品されていない原料の量を指します。この量はすでに確保しているため、新たに発注する量からは差し引かれます。