信頼性の設計
信頼性の向上を目的とした、代表的なシステムの構成および信頼性設計の考え方には以下のようなものがあります。
フォールトアボイダンス(Fault Avoidance)
フォールトアボイダンス(Fault Avoidance)は、その名前が示す通り、エラーまたは障害(フォールト)が発生するのを最初から避けることを目指した設計方針です。
具体的には、システム設計の初期段階で可能な限り問題を特定し、それを取り除くことにより、システムが稼働中に問題が発生するリスクを低減しようとするものです。
静的解析ツールを使用してソフトウェアのコードを事前に検査したり、耐久性の高いハードウェアや部品を使用するなどして実現します。
フォールトトレランス(Fault Tolerance)
フォールトトレランス(Fault Tolerance)は、システムがエラーや問題に対して耐性を持つ、つまり一部のコンポーネントが故障したとしてもシステム全体が機能し続ける能力を指します。
これは、システム内に冗長性(同じ機能を持つ予備のコンポーネント)を設けることによって達成されます。
例えば、データを複数のディスクに同時に保存するRAID(冗長化ディスクアレイ)のような技術があります。これにより、一部のディスクが故障しても、他のディスクからデータを読み出すことが可能となり、システムの停止を防ぎます。
フォールトアボイダンスとフォールトトレランスを例え話で説明すると、次のような状況が考えられます。
想像してみてください。私たちは一緒に大きな舞台劇のプロダクションに取り組んでいます。この劇は、観客に素晴らしい体験を提供するため、多くの機材や俳優、スタッフが必要です。
フォールトアボイダンスは、劇のプロデューサーが可能な限り問題を未然に防ぐための手段です。これは、全ての機材が適切に機能することを確認し、スタッフと俳優が必要な訓練を受けていることを確認し、リハーサルが十分に行われていることを保証することで達成されます。すべてが計画通りに行くように細心の注意を払い、問題が発生する可能性を最小限に抑えるのが目的です。
一方、フォールトトレランスは、問題が発生したときに劇が進行し続けるための準備です。例えば、主要な俳優が突然病気になった場合に備えて、代役を準備することです。また、機材が故障した場合に備えて、予備の機材を用意することも含まれます。こうした準備により、予期しない問題が発生したときでも、ショーを続行することができます。
つまり、フォールトアボイダンスはショーが最初からスムーズに進行することを確認するプロセスであり、フォールトトレランスは何か問題が発生した場合でもショーが続けられるようにする準備のことを指します。
また、フォールトトレランスには次のような考え方が含まれます。
フェールセーフ(fail safe)
フェールセーフとは、システムや機器が故障や異常状態に陥った際に、安全な状態に移行するように設計された仕組みです。
フェールセーフの目的は、故障時に人や環境への悪影響を最小限に抑えることです。
例えば、電車のブレーキシステムはフェールセーフの典型的な例です。 もし電車の制御システムに問題が発生し、ブレーキが正常に作動しなくなった場合でも、自動的に非常ブレーキが作動し、電車を停止させることができます。 これにより、事故のリスクを軽減し、乗客や周囲の安全を確保します。
フェールソフト(fail soft)
フェールソフトは、システムや機器が故障や異常状態に陥った際に、完全に機能を停止させず、限定的な機能や低い性能で動作を継続する設計です。
フェールソフトの目的は、故障時でもシステムの一部を利用可能にし、最小限のサービスを維持することです。
例として、ウェブサーバークラスタが考えられます。 通常、複数のサーバーが負荷を分散してウェブサイトを運用している場合、いくつかのサーバーが故障しても、残りのサーバーが動作し続けることでウェブサイトへのアクセスが可能です。ただし、性能が低下し、応答速度が遅くなることがあります。 このような状況であっても、システムは完全に停止せず、最低限のサービスを提供し続けることがフェールソフトの目標です。
別の例として、ネットフリックスのようなストリーミングサービスが考えられます。ストリーミングサービスは、一部のサーバーがダウンしても他のサーバーがその負荷を引き受け、ユーザーにサービスを続けることができます。
フールプルーフ(fool-proof)
フールプルーフとは、ユーザーの誤操作や誤った使い方による問題を防ぐために、設計や仕組みが工夫されているシステムや機器の特性です。
フールプルーフの目的は、誤操作による悪影響を最小限に抑え、安全性や信頼性を向上させることです。
例として、USBコネクタがあります。 従来のUSB Type-Aコネクタは、上下が決まっており、逆さまに差し込むことはできません。これにより、ユーザーが誤って逆さまに差し込むことによる機器の故障を防ぐことができます。 また、最近ではUSB Type-Cコネクタが普及しており、上下を気にせず差し込むことができます。これにより、ユーザーの誤操作をさらに減らすことができます。
別の例として、電子レンジが挙げられます。 電子レンジのドアが開いているときに誤ってスタートボタンを押しても、安全のために電子レンジは稼働しません。 この機能は、ユーザーが誤って危険な状態を作り出すのを防ぐフールプルーフの一例です。
さらに別の例として、自動車のギアシフトが挙げられます。 運転者は、車が完全に停止していない限り、「パーキング」にシフトすることはできません。 これは、車が動いている状態で誤ってパーキングにシフトし、車が急停止してしまうことを防ぐフールプルーフの一例です。
バスタブ曲線
バスタブ曲線は、機器やシステムの故障率を時間とともに示したグラフで、その形状が浴槽に似ていることからこの名前が付けられました。
バスタブ曲線は、一般的に3つのフェーズに分けられます。
- 初期故障期間: 新しい機器やシステムが稼働し始めたとき、故障率は高く、初期不良が発生しやすいです。この期間は、製造過程での欠陥や設計上の問題が表れることが多いです。
- 偶発故障期間: 初期故障期間を過ぎると、故障率は安定し、低い水準になります。この期間は、機器やシステムが安定して稼働し、故障はランダムに発生します。
- 摩耗故障期間: 機器やシステムが長期間使用されると、部品の摩耗や劣化が進み、故障率が再び上昇します。この期間は、寿命が近づくにつれて故障が増加し、最終的に機能停止に至ります。
バスタブ曲線を理解することで、製品の故障傾向や寿命を予測し、適切な保守・メンテナンス計画を立てることができます。
予防保守とは、システムや機器の故障を未然に防ぐためのメンテナンスのことを指します。
定期的な点検やクリーニング、予防的な部品交換などが含まれます。
予防保守により、システムの可用性を向上させ、故障によるダウンタイムや修理コストを削減することができます。