サービスマネジメント

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サービスマネジメント

ITサービスマネジメント(ITSM:Information Technology Service Management)は、提供しているITシステムが事業のニーズを満たせるように、人材、プロセス、情報技術を適切に組み合わせ、継続的に改善して管理する活動のことです。

その中でもITILアイティル(Information Technology Infrastructure Library)は、ITサービスマネジメントのベストプラクティス(最善の方法)をまとめた一連のドキュメントであり、ITSMの国際的な標準として広く認知されています。

ITILでは、①サービス戦略、②サービス設計、③サービス移行、④サービス運用、⑤継続的サービス改善、といったプロセスを定義し、ITサービスがサービス提供者と顧客双方の観点からビジネス目標に沿った形で提供されるよう指導しています。

ITILを適用することで、企業はITサービスの品質向上やコスト削減、顧客満足度向上を目指すことができます。

ITILを適用することで管理される具体的なサービス

ITILを適用することで管理される具体的なITサービスの例を挙げると、以下のようなものが考えられます。これらは、多くの企業や組織で広く利用されているITサービスです。

  1. クラウドコンピューティングサービス:
    • 例: Amazon Web Services (AWS), Microsoft Azure, Google Cloud Platform, NTTコミュニケーションズのクラウドサービス
    • これらのサービスは、インフラストラクチャ(IaaS)、プラットフォーム(PaaS)、ソフトウェア(SaaS)といった異なるモデルでクラウドベースのリソースを提供します。
  2. データセンターおよびホスティングサービス:
    • 例: IBM Cloud, Dell Technologies, 富士通のデータセンターサービス
    • 物理的または仮想的なサーバーのホスティング、ストレージ、ネットワーキングリソースの提供を行います。
  3. ITサポートおよびヘルプデスクサービス:
    • 例: ServiceNow, Zendesk, 日立ソリューションズのITサポートサービス
    • 企業内のIT関連の問い合わせや問題に対応するサービスです。
  4. アプリケーションマネジメントサービス:
    • 例: SAP, Oracle, NECのアプリケーション開発および管理サービス
    • 企業の業務アプリケーションの運用、保守、サポートを提供します。
  5. セキュリティサービス:
    • 例: Symantec, McAfee, トレンドマイクロのセキュリティ製品
    • サイバーセキュリティ対策、ウイルス対策、侵入検知システムなどを提供します。
  6. ネットワークサービス:
    • 例: Cisco Systems, Juniper Networks, KDDIのネットワークソリューション
    • 企業のネットワークインフラストラクチャの設計、実装、管理サービスを提供します。

これらのサービスは、ITILのプラクティスに従って、サービスの設計、開発、運用、維持といったライフサイクル全体を通じて管理されています。ITILのフレームワークを採用することで、これらのサービスはより効率的かつ効果的に提供され、継続的な改善が図られます。

サービスレベル合意書(SLA)とサービスレベル管理(SLM)

サービス提供者は、サービスを提供するに当たり、顧客とサービスレベルや品質について合意し、さらに合意したサービスレベルを維持する必要があります。

ITILでは、サービス提供者と利用者間のサービス合意書をSLAといい、SLAを適切に管理・運用するための管理活動SLMといいます。

SLA

SLAとは、サービスレベル合意書(Service Level Agreement)の略称で、サービス提供者と利用者間で合意されたサービス品質の具体的なサービスレベルを文書化したものです。

SLAでは、サービスの可用性、応答時間、故障復旧時間など、測定可能な指標(KPI)を定義し、サービス提供者がこれらの指標を達成することを約束します。

顧客はSLAに基づいてサービス品質を評価し、サービス提供者はSLAの内容を遵守することで信頼関係を築くことができます。

SLM

SLMは、サービスレベル管理(Service Level Management)の略称で、SLAを適切に管理・運用するための管理活動です。SLMでは、SLAの作成、締結、監視、レビュー、改善といった一連の活動を実施します。

SLMの目的は、サービス提供者がSLAにおいて約束した品質のサービスを顧客に提供できるように管理することです。サービス提供者は、サービスのパフォーマンスを監視し、顧客の要求に応じてサービスを適時に調整することで、顧客満足度の向上とITサービスの効率的な運用を目指します。

また、SLMでは、顧客のニーズやビジネス環境の変化に対応してSLAを適宜見直し、サービス品質の継続的な改善を目指します。

SLMはSLAを適切に運用するための管理活動
SLMのPDCAサイクル

SLM(サービスレベル管理)では、PDCAサイクルに基づいた活動が行われます。

SLMは、ITサービスの品質を維持し改善するために、サービスレベルを定義し、監視し、管理するプロセスです。PDCAサイクルを用いることで、SLMは以下のように効果的に運用されます。

  1. Plan(計画): サービス要件及びサービス改善計画を基に、目標とするサービス品質を合意し、SLAを作成します。
  2. Do(実行): SLAに基づくサービスを提供します。
  3. Check(評価): 提供したサービスを監視・測定し、サービス報告書を作成します。
  4. Act(改善): サービス提供結果の報告とレビューに基づき、サービスの改善計画を作成します。

このサイクルを繰り返すことで、サービスの品質を継続的に改善し、顧客の期待に応えるサービスを提供することが可能になります。


まとめると、サービス提供者は顧客とのSLA(サービスレベル合意書)に基づいてSLM(サービスレベル管理)の管理活動を実施します。

SLAとSLMの具体例

例1: クラウドストレージサービス
SLA: クラウドストレージサービスは、99.9%の可用性を保証し、データ障害が発生した場合のデータ復旧時間は最大24時間以内とする。
SLM: サービス提供者は、システムの監視や適切なバックアップ手段を用いてSLAで約束されたサービス水準を達成・維持するための管理プロセスを実施する。

例2: ITサポートサービス
SLA: ITサポートサービスは、重大な問題に対する対応時間を2時間以内、一般的な問題に対する対応時間を24時間以内とする。
SLM: サービス提供者は、問題の重要度に応じて優先順位を付け、適切なリソースを割り当てて、SLAで約束された対応時間を達成・維持するための管理プロセスを実施する。

例3: ウェブホスティングサービス
SLA: ウェブホスティングサービスは、月間99.95%のサーバー稼働率を保証し、サーバーダウン時の復旧時間は最大4時間以内とする。
SLM: サービス提供者は、サーバーの監視、定期的なメンテナンス、障害発生時の迅速な対応を通じて、SLAで約束されたサーバー稼働率と復旧時間を達成・維持するための管理プロセスを実施する。

利用者の問い合わせへの対応

利用者の問い合わせに対する対応方法には、サービスデスク、FAQ、チャットボットといった複数のオプションがあります。

これらは、利用者のニーズに応じて、また状況に応じて選択されることが重要です。

サービスデスク

サービスデスクは、一般的に電話やメールを通じた直接的な対話形式で行われる顧客サポートの手段です。

利用者は、特定の問題や疑問点について直接担当者に連絡を取ることができ、個別の対応を受けることが可能です。

しかし、問い合わせの量が多い場合やスタッフの数が限られている場合、サービスデスクでの待ち時間が長くなることがあります。これにより、緊急性の低い問い合わせやよくある問題の迅速な解決が難しくなることがあります。

FAQ(Frequently Asked Questions)

FAQは、Webサイト上にまとめられた一般的な質問とその回答のリストです。

これにより、利用者は自分で情報を検索し、多くの場合で自己解決することが可能になります。

FAQは、よくある問題や一般的な疑問に迅速にアクセスすることを可能にし、サービスデスクへの依存を減らすことができます。

チャットボット

最近のサポートオプションとして、チャットボットが注目されています。

これはAIの自然言語処理技術を活用した自動応答システムで、利用者からの質問に対してリアルタイムで回答を提供します。

チャットボットは24時間体制で動作し、繁忙時においても一定のサービス品質を維持することが可能です。また、簡単な問題や一般的な問い合わせに対して即座に対応できるため、利用者の満足度を高めることができます。

※「チャットボット」という言葉は、「チャット(chat)」と「ロボット(robot)」を組み合わせたものです。

「チャット」は(インターネット上での)会話を意味し、「ロボット(省略してボットとも)」は自動的に動作するプログラムを指します。つまり、チャットボットは、会話を自動的に行うプログラムのことを指しています。

チャットボットのイメージ

サービスデスクは個別の対応を提供し、FAQは一般的な疑問に迅速に答え、チャットボットは繁忙時や簡単な問題に対する迅速なサポートを行います。

これらの方法を適切に組み合わせることで、利用者の問い合わせに対して効率的かつ効果的な対応が実現できます。

インシデントへの対応

インシデントとは、ITサービスの運用において予期しない事象や障害が発生したときの状況を指します。

例えば、システムダウンやセキュリティ侵害などがインシデントに該当します。

ITILにおけるインシデントへの対応には、インシデント管理問題管理があります。

インシデント(incident)とは、「(偶発的な)事件」「事故」「出来事」という意味のある英単語です。

インシデント管理

インシデント管理は、サービスに影響を与える障害や問題が発生した際に、迅速かつ効果的に対応してサービスを復旧させるプロセスです。

インシデント管理の目的は、サービスのダウンタイムを最小限に抑え、正常な運用状態に戻すことです。

インシデント管理では、インシデントの原因追及より一時的な対処や緊急の修正が行われることが多く、その場しのぎの対応が中心です。

エスカレーション

エスカレーションとは、問題やトラブルが解決しない場合に、上位の管理者や専門家へ問題を引き継いで解決を図ることを指します。

例えば、サービスデスクで顧客の問題が解決できない場合は、上位のサポート担当者やマネージャーにエスカレーションされることがあります。

問題管理

問題管理は、インシデントの根本原因を特定し、長期的な解決策を提供するプロセスです。

問題管理は、再発を防ぐためにインシデントの背後にある問題を分析し、修正することを目的としています。

問題管理では、システムやプロセスの根本的な改善策が提案され、実施されます。

インシデント管理と問題管理

インシデント管理は短期的な対応でサービスを復旧させることに焦点を当てており、問題管理は長期的な視点で根本原因を解決し、再発を防ぐことに焦点を当てています。

両者は連携して機能し、サービスの安定性や品質を向上させるために重要な役割を果たします。

システム変更への対応

変更管理

変更管理は、システムやアプリケーションなどに対する変更を組織的に管理し、効果的かつ効率的に実行するプロセスです。

変更管理には、変更要求の評価、変更の要否の決定、承認、スケジューリング、実施、そして監査が含まれます。

変更管理の目的は、リスクや影響を最小限に抑えつつ、システムに対する変更をスムーズに実施することです。

構成管理

構成管理は、システムやサービスの構成要素(ソフトウェア、ハードウェア、ドキュメント、設定情報など)を網羅的に管理・監視・更新するプロセスです。

構成管理は、各コンポーネントの正確なバージョンや設定情報を記録し、変更管理で承認された変更が本番環境に実装される際に追跡・更新を行います。

構成管理の目的は、組織のITインフラストラクチャを正確に把握し、問題発生時や変更実施時に素早く対応できるようにすることです。

ITサービスマネジメントにおける「構成要素」とは?

ITサービスマネジメント(ITSM)における「構成要素」とは、ITサービスを提供するために必要な、あらゆるコンポーネントや要素のことを指します。これにはハードウェア、ソフトウェア、人的資源、プロセス、ドキュメント、ポリシーなど、ITサービスを構成し、提供し、管理する上で必要とされるすべてが含まれます。構成要素の概念は、ITサービスの全体像を理解し、管理しやすくするために重要です。

これらの構成要素は、一般的に以下のように分類されます。

  1. ハードウェア: サーバー、コンピューター、ネットワークデバイス、ストレージシステムなどの物理的な機器。
  2. ソフトウェア: アプリケーション、オペレーティングシステム、データベース管理システムなどのソフトウェア資源。
  3. 人的資源: ITスタッフ、サポートチーム、開発者、管理者など、ITサービスを提供・管理するための人的リソース。
  4. ドキュメント/情報: サービスレベルアグリーメント(SLA)、ポリシー、手順書、設計書、マニュアルなどの文書資料。
  5. プロセス: サービス管理プロセス、運用プロセス、サポートプロセスなど、サービスの提供と運営を管理するための手順や方法。

これらの構成要素は相互に関連し合い、総合的なITサービスの提供に寄与しています。ITサービスマネジメントの目的は、これらの構成要素を効果的に管理し、高品質のサービスを維持し、改善することにあります。

リリース及び展開管理

リリース及び展開管理は、変更管理で承認されたシステムの変更を本番環境に導入するプロセスです。

このプロセスでは、新しいソフトウェアやシステムのリリースを計画、スケジュールし、段階的に実施して品質を確保します。

リリース及び展開管理の目的は、新しい機能や修正を迅速かつ安全に導入し、組織の目標達成をサポートすることです。

ファシリティマネジメント

ファシリティマネジメントは、建物や設備の維持・管理・運用を効果的に行うことを目的とした管理手法です。

ファシリティ(facility)とは、「施設」「設備」などの意味のある英単語です。

これには、物件の安全性、快適性、効率性を向上させるためのさまざまな業務が含まれます。以下は、ファシリティマネジメントの例です。

  1. 清掃業務: 建物内の清潔さを維持するため、定期的な掃除やゴミの回収を行います。
  2. 保守・メンテナンス: エアコン、エレベーター、照明などの設備を適切に機能させるための定期点検や修理を行います。
  3. セキュリティ: 敷地内の安全を確保するため、監視カメラの設置や警備員の配置、入退室管理システムの運用を行います。
  4. 空調管理: サーバ等の機器を正常に動作させたり、快適な室内環境を維持したりするため、適切な温度・湿度・換気を確保します。
  5. エネルギー管理: 効率的なエネルギー使用を実現するため、照明や空調設備の省エネ化や緊急時用電源の管理を行います。
  6. 自家発電装置・UPS: 電力供給の安定や停電時の対策として、自家発電装置や無停電電源装置(UPS)を導入します。
  7. 免振床: 高度な精密機器やサーバーを設置するため、振動を吸収する免振床を利用します。
  8. サージプロテクトOAタップ: 電気機器を落雷の過電圧から保護するため、サージ防護機能付きのOAタップを導入します。
  9. 駐車場管理: 施設利用者のための駐車スペースの確保や整理整頓を行います。
  10. 景観・緑化管理: 快適な外環境を提供するため、庭園や緑地の手入れを行います。

これらの業務を適切に実施することで、効率的な運用やコスト削減を実現し、建物や設備の価値を維持・向上させることができます。

関連用語

UPS

UPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装置)は、電源トラブルに備えて電子機器を保護するための装置です。停電や電圧の変動が起こった時、UPSの内蔵バッテリーがすぐに電力を供給し始めます。

主にサーバやネットワーク機器などの重要な電子機器に接続されて用いられます。

電源が突然喪失した場合、サーバやその他の機器は即座に停止します。この急停止はデータの損失やシステムの破損を引き起こす可能性があります。

UPSは内蔵のバッテリーから電力を供給し、システムを安全に終了(シャットダウン)する時間を確保します。また、停電時には、自家発電装置が稼働するまでの間、一時的に電力を供給し続ける役目を果たします。これにより、データ喪失や機器故障を防ぐことができます。

イメージとしては、電源のトラブル時の「緊急用のバッテリー」のようなものと思ってもらえればわかりやすいでしょう。

UPSは、データセンターや病院、企業のオフィスなど、電力安定性が求められる場所で重要な役割を果たしています。

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