技術開発戦略
デザイン思考
デザイン思考は、利用者も気づかないような潜在的かつ本質的なニーズに基づき、魅力的で実用的な製品やサービスを創造するプロセスです。
デザイン思考は、次の5つのステップからなります。
- 共感:利用者の潜在的かつ本質的なニーズを掘り起こす
- 定義:問題を特定する
- アイデアを出す:解決策を検討する
- プロトタイプ:アイデアを具体化する
- テスト:アイデアを評価する
Appleは、デザイン思考を用いて、独自の音楽プレイヤーであるiPodを開発しました。
当時の音楽プレイヤーは、より多くの曲を聴こうとすると記憶媒体(CD・MD等)を入れ替える必要があるなど使い勝手が悪く、デザインも魅力的ではありませんでした。
Appleは、ユーザーのニーズを把握し、大量の音楽データを持ち運ぶことができて、シンプルで使いやすいデザインと直感的なインタフェースを持つiPodを開発。
これにより、音楽プレイヤー市場で大成功を収めました。
P&Gは、デザイン思考を用いて、家庭用品の革新的な製品であるSwifferを開発しました。
従来の掃除用具は、使い勝手が悪く、効果も限定的でした。P&Gは、ユーザーの掃除に対するニーズを深く理解し、使い捨てクロスで手軽に床を拭けるSwifferを開発。
この製品は、多くの家庭で大変好評を得て、家庭用品市場で革新的な存在となりました。
Airbnbは、デザイン思考を用いて、旅行者と民泊のホストを結びつけるプラットフォームを開発しました。
従来の宿泊施設に不満を持つ旅行者や、自宅の余ったスペースを有効活用したいホストのニーズに注目し、お互いにメリットのあるサービスを提供。
Airbnbは、ユーザーの本質的なニーズに焦点を当て、宿泊業界で大きなインパクトを与えました。
リーンスタートアップ
リーンスタートアップは、効率的かつ迅速に新しいビジネスアイデアを市場に投入する方法です。
このアプローチでは、最小限の機能を持つ製品プロトタイプ(MVP: Minimum Viable Product)を開発し、顧客フィードバックを収集して継続的な改善を行います。
リーンスタートアップは、無駄のない開発プロセスで効果的なビジネスモデルを構築し、イノベーションを推進することを目指します。
Dropboxは、オンラインファイルストレージサービスとして、リーンスタートアップのアプローチを用いて開発されました。
最初に最小限の機能を持つ製品(MVP)として動画デモを作成し、ユーザーの反応を確認しました。このデモが大きな関心を集めたことで、開発を続ける意義が確認できました。
その後、ユーザーのフィードバックを元に改善を重ね、徐々に機能を追加していくことで、Dropboxは今日のような大規模なオンラインストレージサービスに成長しました。
魔の川、死の谷、ダーウィンの海
魔の川、死の谷、ダーウィンの海は、技術開発やイノベーションに関する概念で、新技術や新製品が市場で成功するまでに直面する困難な段階を指します。
技術経営における新事業創出のプロセスを、研究、開発、事業化、産業化の4つに分類した時、それぞれのプロセスに移行するために乗り越えなければならない障壁があります。
- 研究プロセスから開発プロセスへ移行する際に立ちはだかるのが魔の川
- 開発プロセスから事業化プロセスへ移行する際に立ちはだかるのが死の谷
- 事業化プロセス階から産業化プロセスへ移行する際に立ちはだかるのがダーウィンの海
魔の川
基礎研究が製品開発に結び付かない現象をいいます。
研究段階のアイデアや技術が、具体的な製品やサービスへと展開できない困難な状況を指します。
例)量子コンピューターは、基礎研究が盛んに行われているものの、まだ実用化されていない技術です。
死の谷
製品開発が事業に結び付かない現象です。
新製品が市場に投入されたものの、十分な需要が見込めず、事業化が困難になる状況を指します。
例)Google Glassは、当初期待されたものの、高価格やプライバシーへの懸念から市場での需要が伸び悩み、事業化が困難になりました。
ダーウィンの海
事業化できても産業化できない現象です。
新規事業が立ち上がったものの、競合や市場環境の変化などにより、長期的な産業化が困難な状況を指します。
例)電子ペーパー技術を搭載した電子書籍リーダーは、市場に登場したものの、タブレットやスマートフォンの普及によって、産業として成長することが難しくなりました。
イノベーションのジレンマ
イノベーションのジレンマとは、企業が既存の成功したビジネスモデルを継続することに固執するあまり、新しい技術やビジネスモデルがもたらす急激な変化に対応できず、結果として市場での地位を失うリスクを指します。
新しい技術が従来の技術を置き換える「破壊的イノベーション」が起こると、このジレンマにより、かつての成功企業が市場での地位を失うことがあります。
企業は、柔軟な組織体制や意思決定プロセスを確立し、イノベーションのジレンマを克服する必要があります。
- Kodak(コダック):フィルムカメラのリーダー企業でありながら、デジタルカメラの革新に遅れを取り、市場シェアを失いました。コダック自体がデジタルカメラの技術を持っていたものの、フィルムビジネスへの依存からデジタル技術へのシフトが遅れたため、競合他社に取り残されました。
- Nokia(ノキア):携帯電話業界のリーダーであったノキアは、スマートフォン市場の登場に対応できず、アップルやグーグルに市場を奪われました。ノキアは従来の携帯電話市場で成功していたため、スマートフォン市場へのシフトが遅れ、競争力を失いました。
- デジタルカメラ業界: スマートフォンのカメラ技術の進化により、従来のデジタルカメラ市場は縮小しています。スマートフォンに内蔵された高性能カメラは、コンパクトデジタルカメラの需要を大幅に減らしました。デジタルカメラメーカーは、より高度な機能や専門性を持つカメラにシフトして、競争力を維持しようとしています。
- Blockbuster(ブロックバスター):かつてはビデオレンタル業界のリーダーであったブロックバスターは、Netflixなどのオンライン動画配信サービスの台頭に対応できず、破産しました。従来のビジネスモデルに固執し、新たな技術や市場の変化に適応できなかったため、衰退していきました。
- BlackBerry(ブラックベリー): かつてはビジネスマンに支持されていたスマートフォンメーカーでしたが、iPhoneやAndroidデバイスの登場により市場シェアを急速に失いました。ブラックベリーは物理キーボードを採用していましたが、タッチスクリーンへのシフトが遅れ、新しい技術やユーザーのニーズに対応できませんでした。
- イエローキャブ(タクシー業界): UberやLyftなどのライドシェアサービスの台頭により、従来のタクシー業界は市場シェアを失っています。これらの新興企業が革新的な技術やサービスを提供したことで、タクシー業界は顧客ニーズに対応できず、競争力を失いました。
関連用語
ハッカソン(hackathon)とは、ハック(hack)とマラソン(marathon)を組み合わせた造語で、プログラマー、デザイナー、エンジニアなどの専門家が集まり、限られた時間内(通常は24~48時間)で新しいアイデアや技術を使ったアプリケーションやソリューションを開発するイベントです。
ハッカソンは、イノベーションを促進し、新しいアイデアや技術を迅速に開発・試作するためのプラットフォームとして、企業やコミュニティが幅広く活用しています。