情報セキュリティ管理① リスクマネジメント

目次

リスク

情報セキュリティマネジメントにおけるリスクとは、情報資産を取り巻く脅威や脆弱性によって引き起こされる、損失や被害の可能性を指します。

リスクを適切に評価し、管理することで、情報セキュリティを確保することが求められます。

具体的には、リスク評価を行い、リスクに対する対策を策定し、実施することが重要です。

リスクマネジメント

リスクマネジメントは、組織やプロジェクトに潜在するリスクを特定、分析、評価、そして対応するプロセスです。

リスクマネジメントの目的は、リスクを適切にコントロールすることで、組織の目標達成を支援し、不測の事態による損失を最小限に抑えることにあります。

リスクマネジメントの流れについては、リスクアセスメントとリスク対応に大別されます。

リスクアセスメント

リスクアセスメントは、情報セキュリティにおけるリスクを評価し、適切な対策を立てるためのプロセスです。

アセスメント(assessment)とは「評価」「査定」という意味の英単語です。

リスクアセスメントは、リスク特定→リスク分析→リスク評価という順番で実施します。

以下に詳しく説明します。

STEP
リスク特定

リスク特定はリスクアセスメントの最初の段階で、組織が直面する可能性のある脅威や脆弱性を洗い出すプロセスです。

この段階での目的は、組織の業務やプロジェクトに影響を与えうる全てのリスク要因を特定することです。

例えば、自然災害やデータ漏洩、技術的故障、市場の変動などがリスク要因となり得ます。

STEP
リスク分析

リスク分析は特定されたリスク要因の詳細な分析を行い、その特質を理解するプロセスです。ここでは、各リスクが組織に与える影響の程度とその発生確率を評価し、リスクレベルを決定します。

この分析は数値に基づく定量的なアプローチや記述に基づく定性的なアプローチで行われることがあり、リスクの特性と潜在的な影響を明らかにします。

たとえば、データ漏洩リスクが引き起こす損害の大きさと発生確率を分析します。

STEP
リスク評価

リスク評価はリスク分析の結果を基にリスクを優先順位付けするプロセスです。

リスクの大きさ、受容可能かどうか、緊急性を考慮し、どのリスクに最も注力するべきかを決定します。

例えば、高い影響力と発生確率を持つリスクは優先的に対処する必要がありますが、影響が低く発生確率も低いリスクは低優先度となる場合があります。

リスクアセスメントは定期的に行うことが重要であり、新たな脅威や脆弱性が発見された際や、組織の目的や環境が変化した場合には、再評価を行い適切な対策を継続的に講じることが求められます。

リスク対応

リスク対応は、リスクアセスメントの結果をもとに、どのようにリスクに対処するかを決定するプロセスです。

リスク対応の目的は、組織が直面するリスクを適切に管理し、その影響を最小限に抑えることです。

主に以下のような方法があります。

  • リスク移転(リスク共有):リスク移転は、リスクを他の組織や第三者に転嫁するリスク管理戦略です。これは、例えば保険契約を結ぶことによって、潜在的な損失やダメージを保険会社に「移転」することが挙げられます。また、契約においてリスクの責任をサプライヤーやパートナーに移すこともリスク移転の一形態です。リスク移転は、組織が自身で直接対応することが難しいリスクを効果的に管理するために用いられます。
  • リスク分散(リスク共有)は、リスクを小さな部分に分け、それを異なるエリアやプロジェクト、投資などに分配することにより、全体のリスクの影響を減少させる戦略です。投資における「ポートフォリオの多様化」が典型的な例で、全ての資金を一つの株式に投資する代わりに、複数の株式や資産クラスに分散投資することで、市場の変動によるリスクを軽減します。リスク分散は、一箇所にリスクを集中させることの危険性を避け、より安定した結果を求める場合に用いられます。
  • リスク回避:リスク回避は、リスクを完全に排除することを目指す対応方法です。具体的には、リスクを引き起こす活動を中止するか、代替手段を採用してリスクの原因を取り除くことが考えられます。ただし、リスク回避はビジネスチャンスを逃すこともあるため、慎重な判断が必要です。
  • リスク保有(受容):リスク保有は、リスクの発生確率や影響が小さく、組織の許容範囲内であると判断した場合や対策コストが損失額を上回る場合などに、そのリスクを受け入れる対応方法です。リスク保有を選択する際は、リスクが現実化した場合のコンティンジェンシープラン(緊急対応計画)を用意しておくことが重要です。
  • リスク低減(軽減):リスク低減は、リスクの発生確率や影響を低減するための対策を実施する対応方法です。これには、セキュリティ対策やプロセスの改善、緊急対応計画の策定などが含まれます。リスク低減は、残存リスクが許容範囲内になるように、効果的かつ効率的な対策を選択・実施することが求められます。

リスク対応の選択は、リスクの特性、組織のリスク許容度、リソースの可用性などに基づいて慎重に行われます。効果的なリスク対応は、組織がリスクを適切に管理し、目標達成のための安定した環境を維持するのに役立ちます。

リスク対応の例

以下に、リスク移転、リスク回避、リスク受容、リスク軽減の具体例をそれぞれ挙げます。

  • リスク移転(リスク共有)の具体例:
    • 保険契約を結び、火災や事故などのリスクを保険会社に移転する。
    • アウトソーシングにより、特定の業務やプロジェクトの実施リスクをサードパーティベンダーに移転する。
    • 契約によって、特定の失敗に対する責任をパートナー企業に移転する。
  • リスク分散(リスク共有)の具体例:
    • 株式、債券、不動産など異なる資産クラスに分散投資し、投資ポートフォリオの多様化を進める。
    • 事業活動を複数の国や地域に広げることで、地政学的リスクを分散する。
    • 異なる種類の製品やサービスを提供することで、市場変動リスクを分散する。
  • リスク回避の具体例:
    • サイバーセキュリティリスクが高い地域でのビジネス活動を避ける。
    • 地政学リスクの高い地域でのビジネスから撤退する。
    • セキュリティの脆弱性が確認されたソフトウェアやハードウェアを使用しない。
    • 法的な問題が起こりそうな取引やビジネスから手を引く。
    • 高い犯罪発生率を持つ地域での新規事業の開始を避ける。
  • リスク保有の具体例:
    • 新製品の開発や新市場への参入といった、ある程度の失敗リスクを伴う活動を承認する。
    • 小規模な事業であれば、失敗しても大きな影響がないと判断し、リスクを受け入れる。
    • 一部のリスクについては、コストや時間などのリソースが限られている場合、意図的に受け入れる。
  • リスク低減の具体例:
    • 定期的なデータバックアップを行い、データの損失リスクを低減する。
    • セキュリティシステムの導入やアップデートを実施し、不正アクセスやウイルス感染のリスクを低減する。
    • 従業員向けの安全トレーニングを実施し、労働災害のリスクを低減する。
    • 多様な投資ポートフォリオを持つことで、金融市場の変動リスクを低減する。

これらの対策は、具体的な状況やリスクの種類により適切に選択され、適用されるべきです。

関連用語

セキュリティバイデザイン

セキュリティバイデザイン(Security by Design)は、製品やシステムを開発する際に、企画・設計(デザイン)などの初期段階からセキュリティを考慮し組み込むアプローチです。この概念では、セキュリティは後から追加するものではなく、設計プロセスの核心的な部分とされます。

具体的には、セキュリティリスクの評価、脆弱性の予防、セキュリティ要件の明確化などを、製品やシステムの開発の初期段階で行います。これにより、セキュリティが製品のライフサイクル全体にわたって組み込まれ、システムがより堅牢になります。

セキュリティバイデザインの主な利点は、後からの修正に比べてコストが低く、セキュリティ上の問題を早期に特定して対応できることです。また、製品の信頼性やユーザーの安心感を高めることにも寄与します。

このアプローチは、ソフトウェア開発だけでなく、ハードウェア、ネットワークシステム、IoTデバイスなど幅広い分野で重要視されています。

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